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5~6月のお題その3
Lump様より「鍵のない檻」 平安風。 シリアス甘い気がする。 ご無沙汰しています、久しくお会いしておりませんがお元気でしょうか――。 そこまで書いた私の口から溜息が漏れました。これで何回目でしょう。 それ以上筆が進むことはありません。私自身、これ以上書けないことは十分にわかっております。けれど書かねばならないのです。相手はとても大切な友人なのですから。 しかしこの胸に渦巻くものを思うと、手は止まり、そこから一時たりとも書くことができなくなってしまうのです。 嫉妬など醜い、浅ましいもの――。そう考えているというのに、やはり妬いてしまうものです。あの方の心は私一人のものではないとわかっているのに。 独占法を施行します かつて私は宮中で働いておりました。 やはりそこで働いていた二人と懇意になり、やがてその内の一人と夫婦となりました。 あの方と一緒になれることは、私の人生で一番の慶び事だったと言っていいでしょう。政略結婚が当然のように行き交う中、本当に好いた相手と添い遂げられることは奇跡にも等しいことです。 しかし、その奇跡は深い悩みも共に連れてきました。 宮中時代にできたもう一人の友人、その方は私よりも先にあの方と結婚されていたのです。お二人は幼馴染でした、幼い頃から共に過ごした男女が成長したお互いを見て意識し合うのも無理はありません。 あの方は私も友人も平等に扱ってくださいます。不公平なことが大嫌いなあの方らしいとは思うのですが、時にその公平さが憎らしく思えるのです。 ですが、未だ宮中で働いている快活な友人のことを思うと、そんな自分に嫌気がさしもするのです。 体を悪くして宮中を去った私にもこまごまと世話を焼いてくれる、優しい方です。あの方が初めての結婚相手に選んだのもわかります。 ですが、だからこそ妬いてしまうのです。自分よりも優れている方だとわかっているからこそ、嫉妬の炎がじりじりと胸を焦がすのです。 結局、手紙にそれ以上何も書けないまま、私は紙と筆を仕舞いました。我ながら狭量であるとは思います。それでもどうにもできないのが人の心なのです。 ああ、車の音がしますね。お帰りになったようです。その音を聞くだけで、私の頭からは友人への嫉妬など掻き消えてしまうのですから、我ながらなんと現金なのでしょう。 小走りに迎えに出て、その体を抱きしめて自ら口づける、など普段ならはしたないと思うこともあの方にはできてしまいます。周囲の女房や家人にも目の前で申し訳ないと後で思うのですが、新婚だからと見逃してほしいのです。 閨の中に入ると、ようやく独占することができます。 いつもと違って、私の眼下にある愛しい人の表情に、愛おしさがこみ上げてきます。今、この瞬間だけは私のものです。誰にも邪魔などさせません。 私の愛しい、夫(つま)です。 あの方は朝になるといつも出て行ってしまう。 わかっていることです。けれど感情では理解できません。独占したいという気持ちを抑えることは容易ではありません。 だから今、この場にいるときだけは私という檻に捕らわれてもらいましょう。 鍵なんて作りません。 いいえ、入り口さえも。 だって、あなたにかかればこの檻はたやすく壊れてしまうのだから、そんなものは意味がない。 そしてこの檻に他の人が入ってきてしまうことなんて、一生考えたくはないのです。 ずっと二人でいましょう。 せめてこの、鍵のない檻の中でだけは。 PR |
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