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【2024/05/05 00:14 】 |
あなたが死んだら、誰が私を殺してくれるの?
5~6月のお題
Lump様より「死神が死んだら、誰が死ねるというの?」

西洋ファンタジー。
切ない感じ。






 隣で何かがもそりと動く気配がした。
「……サヴィニアさん?」
 まだ月の光が部屋に入ってくる時間だというのに、リィザの隣で眠っていた人物は体をベッドから起こしていた。
 茶色の髪と紺碧の目を持つ、凡庸な男。どこにでもいそうな風貌の彼が世にいう、死神たるものだと誰が信じるだろう。
 だが現実に、彼は二日後に死ぬはずのリィザの魂を回収しに来た。生に執着する彼女が未練なくあの世に行けるように、一週間前から宣告に来たのだと。その証拠に、彼は外側に刃のついた鎌を常に持っているし、リィザにしか見ることができない。外側に刃のついた鎌は、人間の体から魂を押し出すように刈るからだという。
「すみません、起こしてしまいましたか」
「どうしたんですか……? まだ夜じゃないですか……」
 すぐにでもどこかへ行ってしまいそうな彼の服の裾を握って、その動きを留める。
共に過ごして五日になる。硬い床ではなく、同じベッドで眠ることを勧めるくらいにはリィザはサヴィニアのことを信用していた。それがやがて、己を死に導く存在であっても。
 リィザ自身はもうすでに、自分の死を受け入れていた。
「先ほど上司から連絡がありまして」
 やんわりと、けれど毅然とした態度でリィザの手を服から話すと、サヴィニアはベッドから降りた。
眠っている間は危険だからと外していた小ぶりの鎌を腰から下げ、つややかな黒玉(ジェット)の装飾がついた黒いマントを羽織る。どうやらどこかへ出かけるつもりらしい。
「同僚が亡くなったそうなので、弔問に里帰りしてきます。少しだけ」
「え?」
 リィザは驚いて目を見開き、素早く体を起こした。すでに眠気は頭から吹っ飛んでしまっていた。
「死神って死ぬんですか……!?」
「死にますよ、もちろん。寿命もありますし、恨まれて殺されることもあります。――まあ、どちらにしろ死ぬことは稀ではありますが」
 衝撃で言葉が何も出てこない。
 死神は死神なのだから死なないとばかり思っていたが、どうやらそれはただの思い込みだったらしい。
 死神も死ぬのだ。
 目の前の男――サヴィニアも。
「朝までには戻りますよ」
 子供に言い聞かせるように微笑し、リィザの髪をそっと撫でる手は、あくまで優しい。
「あ……」
 そのわずかな接触もすぐに終わり、サヴィニアはリィザに背を向けた。
 仕事の最中だというのに、彼はあっさりと死亡予定人を放ってドアへと向かう。
 まるでリィザのことなどどうでもよくなってしまったかのような態度に、わきあがってきたのは強烈な感情だった。
 自分を殺すと言ったのに、そんな自分をひと時でも置いていくサヴィニアに対する苛立ちと、親においていかれる子供のような寂寥感。責め立てたくなる、我儘な子供のような苛立ちと寂しさがリィザを支配していた。
 でももし、彼が自分を殺す前に死んでしまったら?
 リィザから離れているところでその生を終えてしまったら?
 考えると止まらなくて、サヴィニアの背中を追わずにはいられなかった。
「あの……っ」
 恐怖と緊張でひりついた喉からは、掠れた声しか出てこなかった。


あなたが死んだら、誰が私を殺してくれるの?


 私の同僚が殺してくれますよ、とあなたは薄く笑って闇に溶けた。
 あなた以外の人には殺されたくなんてないというのに。


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【2013/06/11 20:56 】 | 切ない | 有り難いご意見(0)
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